東京高等裁判所 平成10年(行ケ)269号 判決 1999年5月31日
横浜市鶴見区鶴見中央2丁目12番1号
原告
千代田化工建設株式会社
代表者代表取締役
北川正人
東京都新宿区西新宿2丁目4番1号
新宿NSビル
原告
セントラル警備保障株式会社
代表者代表取締役
出佐正孝
上記両名訴訟代理人弁理士
清水千春
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
小川謙
同
松野高尚
同
井上雅夫
同
小林和男
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告ら
特許庁が、平成9年異議第75404号事件について、平成10年7月8日にした特許異議の申立てについての決定(以下「本件決定」という。)を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告らは、平成4年7月22日、名称を「遠隔監視警備システム」とする発明(以下「本件発明」という。)につき、特許出願(特願平4-195688号)をし、平成9年2月27日に特許登録(特許第2611092号)を受けた。
訴外竹田茂代は、平成9年11月7日に、同千葉央子は、同月19日に、本件発明について、それぞれ特許異議の申立てをした。
特許庁は、両申立てを、平成9年異議第75404号事件として審理した上、平成10年7月8日、「特許第2611092号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との本件決定をし、その謄本は、同年8月5日、原告らに送達された。
2 本件発明の要旨
(1) 特許請求の範囲の請求項1に記載された本件発明(以下「本件発明1」という。)の要旨
中央監視局と被監視場所とを通信回線で接続し、前記被監視場所には、異常状態を検出するためのセンサーと、該被監視場所を撮影するための撮像手段と、前記センサーからの異常検出信号および前記撮像手段からの画像信号を中央監視局側に送る発信手段とを設け、前記中央監視局には画像表示手段を設けた遠隔監視警備システムにおいて、前記撮像手段は一定時間毎に被監視場所を撮影して定時画像を得るとともに前記異常検出信号発信時に該被監視場所を撮影して異常検出画像を得るように動作制御され、前記画像表示手段は前記異常検出信号の受信に応じて異常検出画像とともに最新の定時画像を表示するように動作制御されることを特徴とする遠隔監視警備システム。
(2) 特許請求の範囲の請求項2に記載された本件発明(以下「本件発明2」という。)の要旨
前記異常検出画像は、前記センサーによる異常検出と同時およびその後所定の時間間隔で複数回撮影した複数枚の画像からなることを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視警備システム。
(3) 特許請求の範囲の請求項3に記載された本件発明(以下「本件発明3」という。)の要旨
前記画像表示手段は、画像分割により、前記定時画像および異常検出画像を同時に表示するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視警備システム。
3 本件決定の理由
本件決定は、別添決定書写し記載のとおり、本件発明1~3が、特開昭61-72397号公報(以下「引用例1」という。)及び特開平1-115295号公報(以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下、それぞれ「引用例発明1」及び「引用例発明2」という。)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、これらに係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条1項2号に該当するので、これらを取り消すべきものとした。
第3 原告ら主張の取消事由の要点
本件決定の理由中、本件発明1~3の要旨の認定、引用例1及び2の各記載事項の認定、本件発明1~3と引用例発明1との一致点及び相違点1~4の認定並びに相違点1、3及び4についての判断は、いずれも認める。なお、本件決定が、引用例発明1について、「刊行物1のものにおいても、異常信号が有った瞬時の映像と、異常発生前の状況の映像をとを比較するという事は、異常信号が有った瞬時の映像と、異常発生前の状況の映像をともに表示して比較していると考えるのが妥当だと考えられる。」(決定書10頁3~7行)と認定したことは誤りであるが、被告は、これを訂正し削除したものであるから、この点を本件決定の取消事由とはしない。
本件決定は、本件発明と引用例発明1との相違点2についての判断を誤る(取消事由1)とともに、本件発明1~3の有する顕著な作用効果を看過した(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 相違点2についての判断誤り(取消事由1)
本件決定が、「監視装置において、複数の画像を同時に表示することは、例えば取消理由において引用した刊行物3(特開平1-115295号公報〔注、引用例2〕)等により周知のことである」(決定書10頁8~11行)と認定したことは認めるが、この引用例発明2に代表される周知技術は、ある時点から連続して撮影された画像を時間経過に従って分割画面に表示する限りのものであって、ある時点以前に撮影されていた過去の画像と、ある時点以降撮影された新たな画像とを、同時に表示することは、本件出願前における周知の技術ではない。
また、本件発明の主たる特徴である、画像表示手段が、異常検出の受信に応じて、異常検出画像と最新の定時画像とを同時に表示するように動作制御されることは、周知とはいえないのである。
したがって、本件決定が、上記の一般的な周知技術に基づいて、「刊行物1においても、異常発生前の状況が記憶されている画面と、警報信号があった時の瞬時の映像とを比較する場合に、それらの画面をともに表示することは当業者が容易に考えられることと認められる。」(決定書10頁11~15行)と判断したことは誤りである。
2 顕著な作用効果の看過(取消事由2)
本件発明においては、画像表示手段において異常検出画像とともに最新の定時画像を表示する結果、異常時の画像と当該異常発生前の最新定時画像とを、直接対比しながら視覚により現場状況を判断することができるため、現場認識のない監視員であっても、状況を的確に判断し、適切な処理を迅速にとることができるという顕著な作用効果が得られるのである。
これに対して、引用例発明1にあっては、異常検出画像を最新の定時画像とを同時に対比することができず、両者を切り替えることにより間接的に対比することになるため、正確に異常か否かの判断を行うには、両者を再度切り替えて確認する必要が生じることになる。この結果、当然その判断が遅れるとともに、特に現場認識のない監視員によっては、的確な判断を迅速に行うことが難しくなるため、上述した本件発明の作用効果を奏し得ない。
このように本件発明における顕著な作用効果は、引用例発明1及び2から予測できる程度のものではないから、本件決定が、「本件請求項1に係る発明は、前記刊行物1及び前記周知のものから予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとは認められない。」(決定書10頁16~19行)と判断したことは誤りである。
第4 被告の反論の要点
本件決定の認定判断は正当であり、原告ら主張の取消事由は、いずれも理由がない。なお、本件決定が、「刊行物1は、異常検出画像と最新の定時画像を比較することは記載されているが、異常検出画像とともに最新の定時画像を表示するとは記載されていない点」(決定書9頁2~5行)を、本件発明と引用例発明との相違点2として認定しながら、「刊行物1のものにおいても、異常信号が有った瞬時の画像と、異常発生前の状況の映像とを比較するという事は、異常信号が有った瞬時の映像と、異常発生前の状況の映像をともに表示して比較していると考えるのが妥当だと考えられる。」(同10頁3~7行)と認定したことは、誤りであったが、この相違点2については、引用例2等に記載された周知事項により、当業者が容易になし得ることと判断している(同10頁8~15行)のであるから、その結論において誤りはない。
1 取消事由1について
引用例1には、「中央監視局に設けた画像表示手段が、異常検出信号の受信に応じて、異常検出画像を表示するように動作制御されるものにおいて、必要に応じて、異常発生前の状況と、異常発生時の状況とを比較する」ことが開示されており、さらに、引用例2に示したように、「監視装置において、複数の画像を同時に表示すること」が周知であるから、本件発明1のように構成することは、当業者が容易に考えられることである。
したがって、この点に関する本件決定の判断(決定書10頁8~15行)に誤りはない。
2 取消事由2について
引用例発明1に、「監視装置において、複数の画像を同時に表示する」という周知事項を適用し、「異常発生前の状況が記憶されている画面と、警報信号があった時の瞬時の映像とを比較する場合に、それらの画面をともに表示する」(決定書10頁12~14行)ようにしたものは、本件発明1と同様に、画像表示手段において異常検出画像とともに最新の定時画像を表示する結果、異常時の画像と当該異常発生前の最新の定時画像とを、直接対比しながら視覚により現場状況を判断することができるため、現場認識のない監視員であっても、状況を的確に判断し、適切な処置を迅速にとることができるという、原告らが主張する本件発明1の作用効果と同様の作用効果を得られるものである。
したがって、この点に関する本件決定の判断(決定書10頁16~19行)に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点2についての判断誤り)について
本件決定の理由中、本件発明1~3の要旨の認定、引用例1及び2の各記載事項の認定、本件発明1~3と引用例発明1との一致点並びに相違点1、3及び4の認定、これらの相違点についての判断は、いずれも当事者間に争いがない。
また、本件発明1と引用例発明1とが、「本件請求項1に係る発明は、画像表示手段は異常検出信号の受信に応じて異常検出画像とともに最新の定時画像を表示するのに対して、刊行物1は、異常検出画像と最新の定時画像を比較することは記載されているが、異常検出画像とともに最新の定時画像を表示するとは記載されていない点」(決定書8頁19行~9頁5行、相違点2)で相違すること、「監視装置において、複数の画像を同時に表示することは、例えば・・・刊行物3(・・・)等により周知のことである」(決定書10頁8~11行)ことも当事者間に争いがない。
そして、引用例2(甲第4号証)には、「センサー作動時のテレビカメラの画像を一定時間毎に複数画面を入力し保持できる書込制御回路と画像メモリを備え、その画面を伝送して、受信部にて分割表示することにより、センサー作動時からの時間経過に従った画像を同時に監視できるようにした静止画伝送装置。」(同号証1頁左下欄5~10行)、「センサー作動時より、一定時間毎に複数枚の画像を入力して伝送し、分割表示にて同時にその複数枚の画像を監視できるようにした」(同3頁右下欄5~8行)との記載がある。
これらの記載及び前示争いのない事実によれば、画像表示手段において監視のために複数の画像を同時に表示することは、監視装置という技術分野において周知技術であることが明らかであると認められるから、この周知技術を、監視システムに蘭する発明であって、異常検出画像と最新の定時画像とを比較することが開示されている引用例発明1に適用し、本件発明の構成を推考することは、当業者にとって格別の困難性はないものと認められる。
原告らは、引用例発明2に代表される周知技術が、ある時点から連続して撮影された画像を時間経過に従って分割画面に表示する限りのものであって、ある時点以前に撮影されていた過去の画像と、ある時点以降撮影された新たな画像とを、同時に表示することは、本件出願前における周知の技術ではないと主張する。
しかし、前示のとおり、監視装置である引用例発明1には、「ある時点以前に撮影されていた過去の画像」である「異常検出画像」と「ある時点以降撮影された新たな画像」である「最新の定時画像」とを比較することが既に開示されているのであり、本件決定は、このことを前提として、本件発明との相違点2である比較検討の方法に関して、「監視装置において、複数の画像を同時に表示する」とう周知技術を適用し、本件発明の構成が容易に推考できるとしたものであって、「ある時点以前に撮影されていた過去の画像と、ある時点以降撮影された新たな画像とを、同時に表示する」という周知技術を認定したものではなく、また、その必要もないものであるから、原告らの主張はそれ自体失当であり採用できない。
また、原告らは、本件発明の主たる特徴である、画像表示手段が、異常検出の受信に応じて、異常検出画像と最新の定時画像とを同時に表示するように動作制御されることは、周知とはいえないと主張する。
しかし、前示のとおり、引用例発明1と本件発明1とが、「前記画像表示手段は前記異常検出信号の受信に応じて異常検出画像と最新の定時画像を表示するように動作制御される」(決定書8頁8~12行)点で一致することは、当事者間に争いのないことであり、本件決定は、この一致点を前提として、異常検出画像とともに最新の定時画像を表示するという相違点2の構成に関して、引用例2に代表される周知技術を適用するものであるから、この原告らの主張も、その前提において誤りがあり、到底採用できない。
したがって、本件決定が、上記の周知技術を前提として、「刊行物1においても、異常発生前の状況が記憶されている画面と、警報信号があった時の瞬時の映像とを比較する場合に、それらの画面をともに表示することは当業者が容易に考えれることと認められる。」(決定書10頁11~15行)と判断したことに誤りはない。
2 取消事由2(顕著な作用効果の看過)について
原告らは、本件発明の画像表示手段が、異常検出画像とともに最新の定時画像を表示する結果、異常時の画像と当該異常発生前の最新定時画像とを、直接対比しながら視覚により現場状況を判断することができるため、現場認識のない監視員であっても、状況を的確に判断し、適切な処理を迅速にとることができるという顕著な作用効果が得られると主張する。
しかし、前示のとおり、異常検出画像と最新の定時画像とを比較する監視システムである引用例発明1に、画像表示手段において監視のために複数の画像を同時に表示するという周知技術を適用することは、当業者にとって格別の困難性はなく、このような構成を採用すれば、異常時の画像と当該異常発生前の最新定時画像とを、直接対比しながら視覚により現場状況を判断できるという、上記の作用効果が生じることも明らかであるから、この作用効果も、当業者が当然に予測し得る範囲内のものと認められ、原告らの上記主張を採用する余地はない。
したがって、本件決定が、「本件請求項1に係る発明は、前記刊行物1及び前記周知のものから予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとは認められない。」(決定書10頁16~19行)と判断したことに誤りはない。
3 以上のとおり、原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他本件決定に取り消すべき瑕疵はない。
よって、原告らの本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成9年異議第75404号
特許異議の申立てについての決定
神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央2丁目12番1号
特許権者 千代田化工建設株式会社
東京都新宿区西新宿2-4-1 新宿NSビル私書箱6002号
特許権者 セントラル警備保障株式会社
東京都中央区銀座8丁目16番13号 中銀・城山ビル4階 尾股・清水特許事務所
代理人弁理士 清水千春
埼玉県熊谷市原島241
特許異議申立人 竹田茂代
神奈川県藤沢市鵠沼海岸5-8-23-101
特許異議申立人 千葉央子
特許第2611092号「遠隔監視警備システム」の請求項1ないし3に係る特許について、次のとおり決定する。
結論
特許第2611092号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。
理由
1. 本件特許発明
本件特許2611092号の請求項1、2、3に係る発明(平成4年7月22日出願、平成9年2月27日設定登録。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1、2、3に記載された事項によって構成されるとおりの
「【請求項1】中央監視局と被監視場所とを通信回線で接続し、前記被監視場所には、異常状態を検出するためのセンサーと、該被監視場所を撮影するための撮像手段と、前記センサーからの異常検出信号および前記撮像手段からの画像信号を中央監視局側に送る発信手段とを設け、前記中央監視局には画像表示手段を設けた遠隔監視警備システムにおいて、前記撮像手段は一定時間毎に被監視場所を撮影して定時画像を得るとともに前記異常検出信号発信時に該被監視場所を撮影して異常検出画像を得るように動作制御され、前記画像表示手段は前記異常検出信号の受信に応じて異常検出画像とともに最新の定時画像を表示するように動作制御されることを特徴とする遠隔監視警備システム。
【請求項2】前記異常検出画像は、前記センサーによる異常検出と同時およびその後所定の時間間隔で複数回撮影した複数枚の画像からなることを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視警備システム。
【請求項3】前記画像表示手段は、画像分割により、前記定時画像および異常検出画像を同時に表示するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視警備システム。」
にあるものと認める。
2. 引用した刊行物
これに対して、当審が通知した取消理由において引用した刊行物1(特開昭61-72397号公報)には、
「一般にはこの種のシステムでは監視員が常置しているとは限らず通常ブザーランプ等の警報信号により通報された監視員がテレビカメラを操作する場合が多い。」(刊行物1の第2頁上左欄第7~10行目)、
「次に異常が発生した場合、センサー(21)~(2n)により異常状態を検知して警報信号を制御切替器(41)に入力する。制御切替器(41)ではどのセンサーから警報が発生したかを識別の上、映像切替駆動信号を出力して映像切替器(31)で該当カメラの映像信号を選択して出力する。この信号は映像分配器(101)により分配され画像記憶装置(102)に入力される。次に制御切替器(41)から記録指令信号を出力し、前記画像記憶装置(102)で該当カメラの映像を記憶する。この画像記憶装置(102)は半導体メモリを使用しているので記憶画像を瞬時に再生して凍結した静止画像として出力する。この静止画像を前記制御切替器(41)からの切替信号により映像切替器(103)で選択してテレビモニター(51)に表示する。」(刊行物1の第2頁下左欄第5~18行目)、
「監視員が異常を通報されてからテレビモニター(51)を観察しても異常の有無の確認が容易である。」(刊行物1の第2頁下右欄第1~3行目)、「テレビカメラとモニターが夫々別の場所にある遠方監視システムにおいては映像信号と制御信号を伝送する伝送手段を備えれば上記実施例の同様な効果を有する。またこの場合、画像記憶装置と画像伝送手段との画像信号のインターフェースは実施例のように再生画像ではなく前記画像記憶装置の半導体メモリから直接読み出して画像伝送手段へ入力すれば画像劣化無しに伝送することが可能である。」(刊行物1の第2頁下右欄第10~18行目)、
「また上記実施例ではセンサーからの警報信号により画像を記憶するようにしているが、各カメラ対応毎に複数画面の記憶容量をもつ画像記憶装置を持つ事により常時一定時間毎に一画面を前記複数の画面メモリに順次記憶させ警報信号があった時、その時点で次に記憶予定の画面メモリにその瞬時の画像を記憶後順次記録動作を停止すれば残りの画像メモリに異常発生前の状況が記憶されている事になり監視員がその画面を再生して異常発生時の状況及びその後の状況と比較する事がより異常状態の変化を時間をさかのぼって把握する事ができるので異常発生の原因追及等に有効な手段を提供する事ができる。」(刊行物1の第3頁上左欄第1~13行目)と記載されている。
これらの記載からみて刊行物1には次のことが記載されているものと認められる。
「モニターのある場所とテレビカメラのある場所とを映像信号と制御信号を伝送する伝送手段で接続し、前記テレビカメラのある場所には、異常状態を検出し警報信号を発信するためのセンサーと、テレビカメラとを設け、前記モニターのある場所にはテレビモニターを設けた遠方監視システムにおいて、前記テレビカメラは一定時間毎にテレビカメラのある場所を撮影して定時画像を得るとともに前記警報信号があった時に該テレビカメラのある場所を撮影して警報信号があった時の瞬時の映像を得るように制御され、前記モニターは前記警報信号の受信に応じて
警報信号があった時の瞬時の映像を記録し、異常発生前の状況が記録されている画面を再生し、比較する事ができるようにされることを特徴とする遠方監視システム。」
《請求項1に係る発明について》
3. 対比
そこで、本件請求項1に係る発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1の「モニターのある場所」、「テレビカメラのある場所」、「伝送手段」、「テレビカメラ」、「モニター」、「警報信号」、「警報信号があった時の瞬時の映像」、「異常発生前の状況が記録されている画面」、「遠方監視システム」は、本件請求項1に係る発明の「中央監視局」、「被監視場所」、「通信回線」、「撮像手段」、「画像表示手段」、「異常検出信号」、「異常検出画像」、「最新の定時画像」、「遠隔監視警備システム」に相当すると認められるので、両者は
「中央監視局と被監視場所とを通信回線で接続し、前記被監視場所には、異常状態を検出し警報信号を発信するためのセンサーと、該被監視場所を撮影するための撮像手段と、前記撮像手段からの画像信号を中央監視局側に送る発信手段とを設け、前記中央監視局には画像表示手段を設けた遠隔監視警備システムにおいて、前記撮像手段は一定時間毎に被監視場所を撮影して定時画像を得るとともに前記異常検出信号発信時に該被監視場所を撮影して異常検出画像を得るように動作制御され、前記画像表示手段は前記異常検出信号の受信に応じて異常検出画像と最新の定時画像とを表示するように動作制御されることを特徴とする遠隔監視警備システム。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
相違点1.本件請求項1に係る発明は、被監視場所にセンサーからの異常検出信号を中央監視局側に送る発信手段を設けているのに対して、刊行物1には、発信手段については記載されていない点。
相違点2.本件請求項1に係る発明は、画像表示手段は異常検出信号の受信に応じて異常検出画像とともに最新の定時画像を表示するのに対して、刊行物1は、異常検出画像と最新の定時画像を比較することは記載されているが、異常検出画像とともに最新の定時画像を表示するとは記載されていない点。
4. 当審の判断
そこで、上記相違点を検討すると、
相違点1について、刊行物1において、「通常ブザーランプ等の警報信号により通報された監視員がテレビカメラを操作する場合が多い。」とか、「監視員が異常を通報されてからテレビモニター(51)を観察しても異常の有無の確認が容易である。」と記載されているように、異常が発生したことを監視員に通報するようになっている。また、一般に監視システムにおいては、異常が発生したときに、通報することは通常行われていることであるから、センサーからの異常検出信号を監視局側に通報するための発信手段を設けることは当業者が容易に推考できることである。
相違点2について、一般に画像を比較するという事は、比較する画像をともに表示して比較することにより行われると考えるのが妥当であるから、刊行物1のものにおいても、異常信号が有った瞬時の映像と、異常発生前の状況の映像とを比較するという事は、異常信号が有った瞬時の映像と、異常発生前の状況の映像をともに表示して比較していると考えるのが妥当だと考えられる。
また、監視装置において、複数の画像を同時に表示することは、例えば取消理由において引用した刊行物3(特開平1-115295号公報)等により周知のことであるから、刊行物1においても、異常発生前の状況が記憶されている画面と、警報信号があった時の瞬時の映像とを比較する場合に、それらの画面をともに表示することは当業者が容易に考えられることと認められ3。
そして、本件請求項1に係る発明は、前記刊行物1及び前記周知のものから予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
《請求項2に係る発明について》
5. 対比
本件請求項2に係る発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、一致点は上記請求項1に係る発明についてのところで述べたことと同じであり、相違点は上記相違点1、2に加えて、下記の相違点3がある。
相違点3、異常検出画像が、請求項2に係る発明は、センサーによる異常検出と同時およびその後所定の時間間隔で複数回撮影した複数枚の画像であるのに対して、刊行物1は、そのようなことが記載されていない点。
6. 当審の判断
相違点1、2については、請求項1に係る発明のところの判断を参照。
相違点3について、当審が通知した取消理由において引用した刊行物3(特開平1-115295号公報)には、次のことが記載されている。「センサー(4a)の作動を検知した時刻(T1)でテレビカメラ(4a)よりの画像を送信部(1)の画像メモリ(6a)へ書き込む。一定時間経過後(T2の時刻)に再度テレビカメラ(4a)の画像を画像メモリ(6b)へ書き込む。このように、この動作を計4回くり返すことにより、画像メモリ(6a)~(6d)に時刻T1~T4におけるテレビカメラ(5a)の画像を書き込み、読出制御回路(7)により画像メモリの内容を(6a)~(6d)の順に読み出し伝送制御回路(8)を経由して伝送路(10)へ送出する。
一方受信部(2)では伝送路(10)より伝送制御回路(8)を経由して得られた画像データを書込制御回路(5)により画像メモリ(6a)~(6d)へ順に書き込んでいく。読出制御回路(7)はこの動作とは独立に表示順に従い画像メモリ(6a)~(6d)のデータを読み出してテレビモニタ(11)へ表示する。このようにして第2図におけるBのテレビモニタ表示内容変化のような受信画像表示を得ることができる。」(刊行物3の第3頁上右欄第6行目~同頁下左欄第3行目)、「センサー作動時より、一定時間毎に複数枚の画像を入力して伝送し、分割表示にて同時にその複数枚の画像を監視できるようにしたため、侵入監視等に使用すれば、侵入者等の画像を確実にとらえることができるのみならず、よりきめ細かに現場の状況を把握することができるようになる。」(刊行物3の第3頁下右欄第5~10行目)と記載され、センサーによる異常検出と同時およびその後所定の時間間隔で複数回撮影した複数枚の画像を異常検出画像とすることが記載されているから、刊行物1の異常検出画像において、刊行物3に記載の異常検出画像とすることは、当業者が容易に考えられることと認められる。
そして、本件請求項2に係る発明は、前記刊行物1及び前記刊行物3のものから予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
《請求項3に係る発明について》
7. 対比
本件請求項3に係る発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、一致点は上記請求項1に係る発明についてのところで述べたことと同じであり、相違点は上記相違点1、2に加えて、下記の相違点4がある。
相違点4、画像表示手段が、請求項3に係る発明は、画像分割により、定時画像および異常検出画像を同時に表示するのに対して、刊行物1は、そのようなことが記載されていない点。
8. 当審の判断
相違点1、2については、請求項1に係る発明のところの判断を参照。
相違点4について、当審が通知した取消理由において引用した刊行物3には、次のことが記載されている。
「センサー(4a)の作動を検知した時刻(T1)でテレビカメラ(4a)よりの画像を送信部(1)の画像メモリ(6a)へ書き込む。一定時間経過後(T2の時刻)に再度テレビカメラ(4a)の画像を画像メモリ(6b)へ書き込む。このように、この動作を計4回くり返すことにより、画像メモリ(6a)~(6d)に時刻T1~T4におけるテレビカメラ(5a)の画像を書き込み、読出制御回路(7)により画像メモリの内容を(6a)~(6d)の順に読み出し伝送制御回路(8)を経由して伝送路(10)へ送出する。
一方受信部(2)では伝送路(10)より伝送制御回路(8)を経由して得られた画像データを書込制御回路(5)により画像メキリ(6a)~(6d)へ順に書き込んでいく。読出制御回路(7)はこの動作とは独立に表示順に従い画像メモリ(6a)~(6d)のデータを読み出してテレビモニタ(11)へ表示する。このようにして第2図におけるBのテレビモニタ表示内容変化のような受信画像表示を得ることができる。」(刊行物3の第3頁上右欄第6行目~同頁下左欄第3行目)、「センサー作動時より、一定時間毎に複数枚の画像を入力して伝送し、分割表示にて同時にその複数枚の画像を監視できるようにしたため、侵入監視等に使用すれば、侵入者等の画像を確実にとらえることができるのみならず、よりきめ細かに現場の状況を把握することができるようになる。」(刊行物3の第3頁下右欄第5~10行目)と記載され、分割表示にて同時にその複数枚の画像を監視することが記載されているから、刊行物1の定時画像と異常検出画像の表示において、画面分割により、定時画像異常検出画像を同時に表示するようにすることは、当業者が容易に考えられることと認められる。
そして、本件請求項3に係る発明は、前記刊行物1及び前記刊行物3のものから予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
9. むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1、2、3に係る発明は、上記刊行物1、3に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当する。
よって、結論のとおり決定する。
平成10年7月8日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)